仙人掌

音楽成分多めですが徒然なるままに。

幻想交響曲の新奇性とは

仕事が忙しくて滞っておりました。

新しい元号も発表されてしまって、どんどんと時代に置いてけぼりされそうな感じがありますが、慎ましく生きていきたいものです。

 

仕事でも触れる可能性がありそうなのと、秋にも演奏することになったっていうのと、何かと今年は縁が深くなりそうなのが、ベルリオーズ作曲の「幻想交響曲」です。

つい先日見かけたら、なにかとアニバーサリーなようで、特集が組まれていました。

 

音楽の友 2019年1月号

音楽の友 2019年1月号

 

 ベルリオーズ没後150周年……へえ………

幻想交響曲日本初演90周年……へ、へえ………

どちらも全然知らなかったです…

調べてみると、命日は3月8日だそうで、もう過ぎてしまっていました。残念。

 

 

こういう記念年みたいなものって、結局は演奏会の企画だったりこういう雑誌の企画として取り上げやすいから、という商業的な理由が一番大きいわけですが、それで顧みられたりマイナーな部分にまで突っ込んだりと結構嬉しい作用もありますね。

 

そんなこんなでどうせ何かの縁、ということで今後、「幻想交響曲」のいろいろ気になる部分を不定期に言及していこうと思います。

専門的ななんやらは専門家に任せるので、あくまで私見ではありますが。

 

今回は導入というか軽いものですが、この曲の「新しさ」ってなんだろう、というふとした疑問です。

 

作曲、初演が1830年。あの楽聖ベートーヴェンが第九を作曲したのが1824年、没したのが1827年、と後期ロマン派のような佇まいを見せながら実はかなり古い時代の曲、というのがその新しさを物語っているように思います。

時代で言えば、1790年代の稀代の歴史的事件、フランス革命の後、まだまだ落ち着かない激動の時代です。

詳しくは世界史の教科書とか見た方が早いのでそちらに譲りますが、ルイ16世の処刑以後、第一共和政から第一帝政と続き、ナポレオン敗退から復古王政が樹立。そしてまさに1830年の夏、フランス7月革命が起こり、7月王政へと移行します。

有名なドラクロワによる絵画「民衆を導く自由の女神」もこの7月革命をモチーフにした作品。

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民衆を導く自由の女神ドラクロワ作)

ロマン派芸術の流れを決定づける戯曲「エルナニ」の執筆と初演もこの年です。

エルナニ (岩波文庫)

エルナニ (岩波文庫)

 

 

もちろんフランス人であるベルリオーズもその場に居合わせた当事者の一人であり、1830年4月に幻想交響曲の初稿を完成させ、7月の革命時には、死体を横目に武器を探して3時間近くも奔走したりと、かなり危なっかしい事態だったようです。そして幻想の初演は同年の12月に行われました。

後年、政府からの委嘱を受け、7月革命の記念式典のために破格なスケールで有名な作品「葬送と勝利の大交響曲」を作曲しています。

 

と、大雑把な歴史的立ち位置としてはこんな感じ。

ベートーヴェンももちろんこのような激動の時代を生き、ナポレオンその他、国際情勢に振り回され、受け入れたからこそ、あのような化け物じみた曲たちを生み出してきました。

 

さて、先にも書きました「幻想交響曲」の「新しさ」とは一体なんでしょうか。

交響曲に標題をつけたことか。

固定観念」という要素を曲中に印象づけたことか。

新しい楽器をふんだんに用いたことか。

どれも間違ってはいないと思いますが、その中には誤解も多く含まれていると思います。この点は、調べ始めてから薄々と感じ始めてきました。

 

文化や時代もなるべく拾いつつ、楽器の意味や奏法にも目を向けつつ、これから言及していきたいと思います。あわよくば、ちゃんと結論も出せたらな、と。

 

 

【参考文献】

ベルリオーズ著,丹治恒次郎訳(1981)『回想録〈1〉』白水社

W.デームリング著,池上純一訳(1993)『ベルリオーズとその時代』西村書店

音楽之友社編(1994)『〔作曲家別名曲解説ライブラリー〕ベルリオーズ

今谷和徳,井上さつき著(2010)『フランス音楽史』春秋社

喜多尾道冬ほか(2018)「特集Ⅰ 怪奇と幻想のクラシック」『音楽の友』2019年1月号,pp.58-85,音楽之友社

野本由紀夫「楽曲解説」『東京フィルハーモニー交響楽団』2018年1月プログラム,pp.11-13

Michel Austin,Monir Tayeb(1997)「Letter of  the composer's family」The Hector Berlioz Websitehttp://www.hberlioz.com/index.html (2019/4/8)